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熊本地方裁判所 昭和32年(行)9号 判決

原告 合資会社吉住モータース

被告 熊本税務署長

訴訟代理人 樋口哲夫 外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は請求の趣旨として

(一)、被告熊本税務署長が原告会社に対し昭和二八年三月三日から同二九年三月二日までの事業年度分法人税につき、その所得金額を金二、八七〇万一、九〇〇円、積立金額を金八六七万六、〇〇〇円、基本税額を金一、二四八万八、五九〇円、過少申告加算税額を金四万七、三〇〇円、重加算税額を金三一八万九、〇〇〇円とした再更正処分(昭和三三年三月一二日付減額訂正ならびに同三五年一月二九日付減額更正にかゝる昭和三二年六月二九日付再更正処分)を取消す。

(二)、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、その請求原因として

一、原告会社は三輪自動車、原動機付自転車およびその附属部品の販売ならびに修理業を営む法人であつて、その所得の申告について政府より青色申告書を提出することの承認を受けていたものである。

二、原告会社は昭和二八年三月三日から同二九年三月二日までの事業年度(以下本件事業年度という)所得の確定申告に際し、昭和二九年五月一日原告会社に備え付けた帳簿書類に基づき算出した同年度分の所得額を金一、一〇二万九、四一三円として、青色申告書により被告熊本税務署長に対して申告したところ、熊本税務署長は、同年六月三〇日、当該所得金額を金一、一七七万八、五〇〇円、積立金額を金八六七万六、〇〇〇円、法人税額を金五三八万〇、七七〇円とする更正処分をなした上その旨を原告会社に通知したので、原告会社は右更正処分に承服し、同年七月三一日同処分において定められた税額を納付した。

三、しかるに被告熊本税務署長は昭和三二年六月二九日にいたり突然原告会社に対し、同会社の本件事業年度における所得の申告に脱漏があり、租税を不正に免脱した事実があるとして同事業年度以後の青色申告書提出の承認を取消し、同事業年度の所得金額を金三、一八二万二、二〇〇円、積立金額を金八六七万六、〇〇〇円、法人税額を金一、三七九万九、一二〇円、過少申告加算税額金四万七、三〇〇円、重加算税額金三八四万四、〇〇〇円とする旨の再更正をなし、その旨を原告会社に通知したので、原告は同年七月二九日これを不服として同署長に対し再調査の請求をした。これに対し同署長はその後昭和三三年三月一三日右再更正処分の一部を減額訂正し、更に後記の経過で国税局長の審査決定がなされたのち、重ねて昭和三五年一月二九日請求の趣旨第一項記載のとおりに減額更正し、いずれもその頃原告会社にその旨を通知したが、右二回にわたり減額された部分は僅少の金額にとゞまつている。なおこの間原告がなした本件再更正処分に対する再調査の請求はその後法人税法第三五条第三項第二号により昭和三二年一一月二〇日付をもつて熊本国税局長に対する審査請求とみなされ、同三三年四月二二日結局審査請求棄却の決定が為された。

四、しかし原告会社においては戦後の社会混乱当時ならば兎も角本件事業年度に至つてはその帳簿書類も完備し、正確に記帳しており確定申告もこれに基づき誠実になしているものであるから、青色申告書提出承認を取消されるいわれはなく、まして本件のような再更正処分を受くべきなんらの理由もない。

従つて被告熊本税務署長が誤つた事実認定のもとになした本件再更正処分は違法であつて取消されねばならない。

と述べ、被告の主張に対し、

一、原告会社の所得は決算書に計上してあるところがすべてゞあり、それ以外に利益除外金額は存在しない。

(一) 原告会社は主としてダイハツ工業株式会社の三輪自動車を販売し来たつたものであるがその取引は道路運送車輛法の定めるところにより右会社から仕入自動車一台毎に自動車譲渡証明書の発行を受け熊本県陸運事務所に提出してこれを原告名義に登録し販売の都度原告会社において自動車譲渡証明書を発行した上これにより購入者名義に登録換えをしなければならないのであつて、この手続を経なければ自動車を運行使用することはできず売買の目的を達することができないものである。従つて所謂闇取引は不可能であつて原告会社が売上利益を隠蔽除外することは到底できないしくみになつているのである。

(二) 被告が原告会社が利益除外金額を隠匿していると主張する原告代表者の家族個人ら名義の普通預金、定期預金、定期積金はいずれも原告会社にはなんら関係のないものである。

(三)  被告が原告会社の出金にかゝり同会社が取得したと主張する土地、建物(別紙第二表掲記(四)の1、2)はいずれも吉住三蔵一家の住家として吉住ハツヨが個人で購入取得した同人個有資産であつて勿論その代金は同人の富士銀行熊本支店吉住初代名義の普通預金預金番号18/55一四〇万五、二四二円から支出したものであり、もとより原告会社の所得となるべきものではない。

(四)  原告会社が被告主張の株式を取得した事実は認めるが、これは訴外ダイハツ工業株式会社との取引のため半強制的に購入せしめられたものの増資割当分であつて、その殆んどを同訴外会社との取引の保証代用に供しているものである。

(五)  被告は吉住三蔵一家の所得をもつては前記個人名義の預金をなす余裕はある筈がない旨主張するが、吉住三蔵は原告会社の創業以来粒々辛苦し業積を重ね専ら節約を旨として来た人柄であつてその一家が相当多額の貯蓄を有することにはなんらの不自然不合理もない。

二、原告会社備付けの帳簿上雑収入として水害見舞金が計上されていない事実は認めるが、右金員は昭和二八年六月の水害により物質的、精神的に最も苦難を蒙つた吉住三蔵個人に対し贈与されたものであるから原告会社の雑収入に計上しなかつたのは当然である。

三、原告会社の金銭出納簿の一部に現金残高が赤字となる箇所の存する事実は認めるが、これは収入の一部を故意に除外脱漏せしめた結果ではなく専ら原告会社における雇傭人員の不足とか代金が内払せられることが多かつたため出納整理事務が渋滞したことなどのやむをえぬ理由から記帳に手違いを生じたにすぎないものであつて、総計算においては違算を生じておらず、又その他利益を除外隠蔽仮装した簿外預金なるものは絶対に存しないから、青色申告書の提出承認を取消される理由はなく該取消処分は無効である。

従つて価格変動準備金が否認せられるいわれはないのみならずもともと原告の申告は正当なもので何ら虚偽の事項を含んではいないから、過少申告加算税、重加算税もこれを賦課せられる理由はない。

と答えた。

(証拠省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告の請求原因事実中、原告会社の本件事業年度における帳簿書類の記載に不備不実はなく原告が当該年度の法人税の確定申告として提出した青色申告書に記載せられた所得の内容が正確なものであつた旨の主張事実を争うほか、その余の点はすべて認める。と述べ、被告の主張として

一、被告熊本税務署長は、原告会社の本件事業年度の法人税について、その申告に対し原告会社主張のとおりの更正処分をしたが、その後右申告の内容に不正事実のある疑が生じたのでさらに調査したところ、原告会社記帳の金銭出納簿にしばしば現金残高が赤字になつていたり、又集計が誤つている等不合理不正確な部分があり同事業年度中における多額の売上収益を除外し偽名あるいは無記名の簿外預金を設けてこれに隠匿するなど、その備え付ける帳簿書類に取引の一部を隠蔽仮装している事実が発見され、当該帳簿書類の記載事項の全部についてその真実性を疑うに足りる事情があつたので、法人税法第二五条第八項第三号の規定により昭和三二年六月二九日付で青色申告書提出の承認を取消し、同時に当初の更正にかゝる所得金額にその後の調査により新たに発見した所得金額を加算した上原告主張のとおりの再更正をなしたものである。

なおその後熊本税務署長が昭和三三年三月一二日付で誤謬訂正をしたのは右再更正処分の一部に計算上の誤りのあることを発見したためであり、更に昭和三五年一月二九日再更正をしたのは右誤謬訂正処分の計算の一部に誤りがあり課税標準および法人税額が過大であることを発見したためである。

二、しかして被告熊本税務署長が右再更正処分をなすにいたる経緯は別紙第一表記載のとおりであつて、結局のところその所得金額において加算認定した金額は原告会社の主張額(原告会社が承認している更正額)に比し金一、六九二万三、三九六円の増加となるが、加算した金額の内容および認定の理由は次のとおりである。

(一) 原告会社の利益除外金額と認められる金一、三六四万六、七二一円の所得が存すること。

原告会社には、本件事業年度の期末現在における簿外資産(決算書に表示されていない資産)として

1、普通預金   八九二万六、七一九円

2、定期預金   六一九万七、〇〇〇円

3、定期積金   一五二万〇、〇〇〇円

4、その他の資産 二〇六万二、〇〇〇円

合計 一、八七〇万五、七一九円

が存在した。

その内容の明細は別紙第二表記載のとおりであつて各預金者および物件取得者は原告会社の代表者吉住三蔵の家族個人ないし架空人の名義、あるいは無記名となつているが、原告会社、その代表者ないしその家族の財産状態、債務の増減、収入若しくは支出の状況を右預金の預け入れおよび引き出しの状況と仔細に照合し、あるいは右預金の預け入れ、および引き出しに用いられている印影ないし筆跡を原告会社のものと認められる預金の出し入れにつき用いられている印影ないし原告会社振出にかゝる小切手の筆跡と対比検討するなど所得の根源につき調査を尽した結果、これらの預金はいずれもその預金名義人の所得でなく又その他の資産もその取得名義人の資産ではなくて、原告会社の簿外資産であることがあきらかとなつたのである。

そこで原告の本件事業年度における利益除外金額を算出すべく、同年度における原告の簿外資産の期首現在高を調査したところ別紙第二表該当欄に記載のとおりであつて、その総合計の差引高は一、五三六万二、一六一円となるところ、そのうちには本件事業年度中において原告会社の代表者である吉住三蔵およびその家族が受け取るべき富士銀行の株式配当金等原告会社の所得でないと認められるものが一七万五、四四〇円含まれているから、その金額を控除した一、五一八万六、七二一円が原告会社の純利益に算入すべきものとなるが、更にその中には簿記の分類上後記(二)のとおり雑収入に計上すべき水害見舞金一五四万円が含まれているのでこれを控除した一、三六四万六、七二一円がかくされた営業利益として更に原告会社の所得に加算せらるべきものと認定したわけである。

なお本件事業年度中である昭和二八年六月二六日、熊本市内は大水害に遭遇し街をあげての排土作業、復旧作業のため車輛、附属部品の需要および修繕の受註は激増し、原告会社の営業はとみに活況を呈していたのであつて、水害後の混乱に乗じかゝる多額の利益の除外隠蔽がなされたとしてもあえて異とするに足りないところである。

(二) 原告会社が本件事業年度において取引先であるダイハツ工業株式会社等から水害見舞金として一五四万円の贈与を受入れながら決算書に、雑収入として同額を計上していないこと。

(三) 価格変動準備金一七三万六、六七五円の繰入れが否認せられること。

すなわち価格変動準備金については租税特別措置法第五条の一〇により青色申告書提出の承認がある場合にのみ、法人の所得の計算上損金算入が認められるのであるが、原告会社は熊本税務署長から前叙のとおり本件事業年度以降にかゝる青色申告書提出の承認を取消され、該処分はその後不服申立期間の徒過により確定しているので、原告会社においてすでに損失として計上した価額変動準備金は所得の計算上損金として計上できなくなつたものである。

以上のように原告会社はその帳簿書類に取引の一部を記載せず、その収益を隠蔽仮装して過少な申告をなし法人税の負担の軽減を計つたものであるから、被告熊本税務署長は新たに発見した利益除外金額等を加算した課税標準に基き法人税額を算定し、更に過少申告加算税金四万七、三〇〇円、重加算税金三八四万四、〇〇〇円をあわせて賦課したものであつて、もとより本件再更正処分は適法である。従つてその取消を求める原告の本訴請求は理由がない。と述べた。

(証拠省略)

理由

原告の主張する請求原因事実については、そのうち原告会社備え付けの本件事業年度の帳簿書類の記載には不備不実なく、同会社が被告熊本税務署長に提出した当該年度の法人税の青色申告書に記載した所得金額は正額である旨の主張部分を除きすべて被告の認めるところであつて、右当事者間に争いのない経過事実に徴し本件訴訟は訴願前置の関係において適法要件に欠けるところはないということができる。

(右につき被告熊本税務署長が昭和三二年六月二九日付をもつて再更正処分を行い、次いで昭和三三年三月一二日付で誤謬訂正をし更に同三五年一月二九日付で再再更正処分をしたことも当事者間に争いがないが、右誤謬訂正ならびに再再更正処分はいずれも前処分における課税標準および法人税額を減額訂正したものというのであるからその実質は当初の再更正処分の一部取消に外ならないものであつて、右再更正処分と一体をなし当初より右のように減額訂正された内容の再更正処分があつたと同様に取扱うべきものと解される。)

よつて本案について考えるに本件の主たる争点は原告の承服する昭和二九年六月三〇日付の当初更正処分の認定所得額とその後被告が再更正処分において認定した所得金額との差額が原告会社の本件事業年度における所得と認められるか否かにあるので先ずこの点について判断をすゝめる。

(一)  被告が原告会社の簿外預金であると主張する別紙第二表掲記(一)(二)(三)の各預金が関係各銀行の預金として本事業年度の期首期末において同表該当欄記載の現在高で存在した事実自体は同表摘要欄証拠関係掲記の乙号各証(右乙号証は乙第三五号証の二、第六二、第六三号証を除きいずれも関係銀行の各預金元帳あるいは各預金者名義の預金証書の写真であつてその原本の存在についてはいずれも当事者間に争いなく、乙第一一号証の一、第一二号証の二、第一三号証の一、第一九、第二〇号証の各一、第二一号証の一、四、七、第二二号証の一、第二三号証の一、六、第二四号証の一、第二三号証の四、第六二、第六三号証についてはいずれもその方式および趣旨により関係銀行が業務上作成した文書であることを窺いうるので真正に成立したものと認められ乙第三五号証の二および爾余の各証についてはうち乙第四号証、第六号証、第七号証の各二、第八号証の一、二の各預金者届出印欄の印影を除きいずれも成立に争いがない)によつて明らかである。

そこで右各預金が被告主張のとおり原告の簿外預金と認め得るか否かについて考えるに、

(1)  成立に争いのない甲第八、第九号証の各四、原本の存在成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二九号証の一ないし三、第三者の作成にかゝり弁論の全趣旨によりその成立を認むべき同第五四、第五五号証を綜合すると別紙第二表掲記(一)の1の預金に昭和二八年六月熊本市内を襲つた水害により被害を蒙つた原告会社に対する見舞金として、訴外ダイハツ工業株式会社より同年七月一四日付送金により贈与された五〇万円、同じく全日本ダイハツ販売店協会より同年同月一五日付送金により贈与された二〇万円、同じく全日本ダイハツ販売店有志より前同日付送金により贈与された三五万円二口および同年九月一一日付送金により贈与された九万円ならびに同じく九州ダイハツ販売店有志より同年七月一七日付送金により贈与された五万円がいずれもその頃入金せられていること、また同預金口座より昭和二八年一二月七日振替により払い出された一五〇万円及び同じ日に預金者原告会社名義の肥後銀行普通預金(口座番号二三九〇号)より同様払い出された九〇万円につきそれぞれ同金額の肥後銀行支店の自己宛小切手が作成され該小切手は即日原告会社の富士銀行熊本支店の当座預金口座に入金され、翌一二月八日同銀行より手形交換に呈示の上決済されているが、その裏書人は原告会社となつていることが認められ、これらの事実によつて右預金はその名義に拘らず原告会社のものであることが肯認せられる。

原告は前記の合計一五四万円の水害見舞金は原告会社代表者吉住三蔵個人に贈られたものであると主張するが、かゝる事実を認むべき証拠はない。

(2)  前顕別紙第二表掲記(一)の2ないし8の摘要証拠関係欄記載の各証拠に成立に争いのない甲第九号証の四、乙第三六号証、第三九号証の二、第五〇号証の二、第五三号証、関係銀行の預金元帳、支払伝票、預金入金表、原告代表者振出にかゝる小切手等の写真であつてその原本の存在および成立につきいずれも当事者間に争いのない乙第四号証の一(但しその預金者届印欄の印影を除く)第五号証の二ないし四、第三一号証の一二、第三二号証の一、第三四号証の一ないし四、その方式および趣旨により各関係銀行に対し各預金者より提出せられた預金支払請求書であることを認めうる乙第四号証の三、四、第五号証の五、第六、第七号証の各一、第八号証の三、第三七号証の一ないし四、第四一号証の一その方式および趣旨により銀行が業務上作成した書面と認めうるので真正に成立したものと認むべき乙第三八号証の一ない三、第三九号証の一、第四〇、第四一号証の各一、二、公文書であるから真正に作成されたものと推定すべき同第五〇号証の一、第三者の作成にかゝり弁論の全趣旨により真正に成立したものと認むべき同第五一号証、第五四ないし第五六号証、証人舟木旦の証言により真正に成立したものと認むべき同第五二号証を綜合すると、別紙第二表掲記(一)の2ないし8の預金の各名義人である金子誠、同春樹、同健一、同正枝、岩井正男、山下一人、入家守はいずれもその預金取引を始めるにあたり各銀行に届け出た住所地には居住しておらず(乙第五〇号証の一、二)または入家守、岩井正男、山下一人名義の分を除くその余の預金名義人の各預金の預け入れおよび引き出しにはいずれも同一の印章が使用されていること(乙第五号証の五、第六号証の一、第七号証の二、第八号証の二、三、第四一号証の一)が認められるのでこの事実から右預金名義人はいずれも架空人であると見られること、昭和二九年六月二六日付で右山下一人名義普通預金口座より三〇万円、右岩井正男名義普通預金口座より二〇万円がそれぞれ振替によつて払い出された上同日金額五〇万円の同銀行の自己宛小切手が作成され同小切手は即日富士銀行熊本支店の原告会社の当座預金口座に入金され、同月二八日同銀行より手形交換に呈示し決済されているがその裏書人は原告会社となつていること(乙第二、第三号証、第五四号証)右金子誠、同春樹、同健一、同正枝名義の各普通預金口座は富士銀行熊本支店の吉住輝弥、吉住妙子、吉住美智子、吉住初代名義の各普通預金口座がすべて昭和二九年一月一八日付をもつて解約せられた上、当時の預金残高がそのま同日付で吉住輝弥分は金子誠の、吉住妙子分は金子春樹の吉住美智子分は金子健一の、吉住初代分は金子正枝の各普通預金口座に順次引継がれているものであるが(輝弥関係乙第五号証の一、第三四号証の一ないし七、妙子関係乙第六号証の二、第三三号証の一ないし三、美智子関係乙第七号証の二、第三五号証の一、初代関係乙第八号証の一、第三二号証の一ないし三)右吉住妙子名義の普通預金口座には昭和二九年一月九日付で訴外西田忠が肥後銀行高森支店を通じて原告会社に支払つた車輛代金三〇万円および同二七年一二月一〇日付で訴外上通商栄会が原告会社に岡田日出太郎振出の小切手で支払つた車輛代金一三万八、〇〇〇円がそれぞれ入金されていること(乙第三三号証の一、二、第五一ないし五三号証)、また同二八年九月二六日右吉住妙子名義の普通預金口座から引き出された二〇〇万円、吉住美智子名義の普通預金口座から引き出された二〇〇万円、吉住初代名義の普通預金口座から引き出された一二〇万円の合計五二〇万円が同日原告会社名義の富士銀行の当座預金に預け入れられていること、(乙第三二号証の二、第三三号証の一、乙第三五号証の二、第三六号証)、右金子誠、同春樹、同健一、同正枝名義の各普通預金請求書の支払請求書欄の筆跡は原告会社振出の小切手の金額欄の筆跡と同一であること(乙第五号証の五、第六、第七号証の各一、第八号証の三、第三一号証の一、二)昭和二九年一月三〇日金子誠名義の普通預金から引き出した一六五万円は翌三一日原告会社の富士銀行の当座預金に入金されていること(乙第五号証の一、甲第九号証の四)、昭和二九年二月四日金子誠名義の普通預金から引き出した一〇〇万円は同日金子春樹名義普通預金から引き出した二〇〇万円および同日金子健一名義普通預金から引き出した二〇〇万円と併せその合計五〇〇万円が同日原告会社の富士銀行当座預金に預け入れられていること(乙第五号証の一、五、第六、第七号証の各一、二、甲第九号証の四)、右金子名義の各普通預金は昭和三〇年九月二日解約され(乙第五ないし八号証の各二)、その預金残高合計四三二万六、六七五円は同日無記名の富士銀行熊本支店の特別定期預金に二〇〇万円、金子健一名義の通知預金に二三二万六、六七五円宛分けて預け入れられているが(乙第三七号証の一ないし三、第三八号証の一、二、第四〇号証の一)、その後右特別定期預金二〇〇万円は同三一年三月二日解約された上、同日五〇万円は再び同銀行の無記名特別定期預金に、一五〇万円は原告会社の同銀行当座預金に預け替えられていること(乙第三九号証の一、二)、右金額二〇〇万円の特別定期預金の受領印欄及び昭和三五年六月一五日付富士銀行特別定期預金申込書(前記金子春樹名義預金から引き出され定期預金に切換えたもの)に押捺使用されている印影は前示入家守名義の肥後銀行普通預金の預け入れおよび引き出しに使用されている印影と同一のものと認められ(乙第四号証の一ないし四、第四〇号証の二、第四一号証の一、二)さらに昭和二八年九月五日原告会社の肥後銀行普通預金口座から振替によつて一〇〇万円が右入家守名義の普通預金口座に入金されている事実が認められること(乙第四号証の五、第五四号証)等の各事実を認めることができる。以上認定のとおり別紙第二表の(一)掲記2ないし8の各普通預金はいずれも原告会社のものと認められる預金口座と交流しているのであつて、この事実に徴し、その預金名義如何にかゝわらずいずれも原告会社のものであることを肯認することができる。

(3)  前顕別紙第二表(二)掲記の3ないし5、11ないし16の摘要証拠関係欄記載の証拠ならびに乙第四号証の一ないし四はいずれも関係銀行発行の預金証書の写真であつてその原本の存在については当事者間に争いがなく、その趣旨および方式により当該各定期預金名義人が押捺したと認められる受領印があるので真正に成立したものと認められる乙第一一号証の二、第一二号証の一、第一三号証の二、第一九号証の一、第二〇号証の二、第二一号証の二、五、八、第二二号証の二、第二三号証の二、七、第二四号証の二を綜合すると別紙第三表掲記(二)の3ないし5、11ないし16の各無記名定期預金の払い出しのため各預金証書の受領印欄に押捺せられている各預金者の印影は、前記(2)項において判示したとおり原告会社のものであると認められる入家守名義の普通預金の預け入れおよび引き出しのため使用せられている印影と同一のものであることが認められるので、右各無記名定期預金はいずれも原告会社のものであることを推認することができる。

(4)  別紙第二表掲記(二)の1、2、6ないし10、17ないし19の各定期預金および(三)の各定期積金について検討するに、同表摘要証拠関係欄記載の乙号各証及び成立に争いのない乙第四二、第四三号証、第四五ないし第四九号証に弁論の全趣旨をあわせて考えると、右預金名義人である吉住ハツヨ、同輝弥、同悦子、同妙子、同悟、同美智子はいずれも原告会社の代表者である吉住三蔵と生計を共にする家族であるが前段認定のとおり従来原告会社の簿外預金が吉住輝弥、同美智子、同妙子、同初代を預金名義人とする預金口座に預け入れられている事実のあること、同表(三)の1、2、3の吉住美智子、同妙子、同悦子の各積金はいずれもひとしく契約金額を一〇〇万円、毎月の払込金を八万円とする定期積金であること、(二)の1吉住悟名義の預金は(二)の2の吉住輝弥名義のそれと(二)の8吉住悟名義の預金は(二)の7吉住妙子及び(二)の10吉住美智子のそれと同一日の預金であり(二)の6吉住悦子名義の預金払戻し受領欄の署名の筆跡は(二)の10の吉住美智子名義のそれと同一と認められることなど多額の収入を有するものがこれを分散して預けるため数口の預金口座を設けたものと認むべき事情にあること、および右吉住家における各人の昭和二五年度から本件事業年度にいたる各年度の申告所得額は別紙第三表掲記のとおりであつて、(本件事業年度分の吉住輝弥、同悟の申告所得金額についてはいずれも原告会社において被告らの主張事実を明らかに争わないので自白したものとみなされる)かゝる多額の預金を本件事業年度に新規に預金するだけの個人収入があると認むべき資料のないことに徴し、右各預金はその預金者名義にかゝわらず原告会社のものと認むべきである。

(5)  原告会社は別紙第二表(二)(三)掲記の各預金のうち吉住姓の者の預入名義の分は原告代表者吉住三蔵が勤儉これつとめて得た永年の蓄財の結果を家族名義で預金したものであると主張するが、これらと同一の名義のもので明らかに原告会社の預金と認むべきものゝ存すること前認定のとおりであるのみならず、吉住三蔵が従前如何なる収入源を有し、これらの預金に変形したという個人の収入ないし資産をどのような形で運用保持して来たかの点について、原告会社は税務当局より本件再更正処分にいたる調査の段階において、更に又再調査請求に基く調査の機会にも、屡々これが釈明を求められておりながらこれに対しなんら具体的な応答をしなかつたことは証人小山藤生の証言によつて明らかであり、右の点については本訴においても遂に明らかにされることがなかつたのであるから、かゝる経過に徴しても原告会社の右主張を正当と認めることはできない。

(二)  本件事業年度中に吉住ハツヨ名義で訴外片山則孝、および同伊牟田義介から被告主張の各土地、建物が購入せられていることは原告会社の自認するところであり、前顕乙第四号証の五、第三五号証の二、第五六号証、成立に争いのない同第三〇号証の一、二、同第五九ないし第六一号証、同第六四号証および弁論の全趣旨に徴すると、昭和二八年九月七日吉住ハツヨ名義で片山則孝から購入した別紙第二表掲記(四)の1の土地建物の代金として同人に支払われた一〇〇万円はさきに原告会社の資産に属すると認定した入家守名義の普通預金から支出せられ、又同年一一月二〇日同じく伊牟田義介から購入した同表(四)の2の土地建物の代金として同人に支払われた四〇万円はさきに原告会社の資産と認定した金子健一名義の普通預金の前身である吉住美智子名義預金から支出せられていることが認められるから、その支出一四〇万円については原告会社の本件事業年度中における利益が前叙不動産に変形して隠匿されているものといわざるを得ない。

原告は右土地建物はいずれも吉住ハツヨの富士銀行普通預金(預金番号18/55)一四〇万五、二四二円を引き出しこれによつて購入したものであると主張するがこれを裏付ける証拠はないし、かりにそうであるとしても右吉住ハツヨ名義の預金は前叙のとおり原告会社の簿外預金と認むべきであるので同じ原告会社の簿外預金のどの口座から引出されたかというだけの問題となり深くせんさくする要をみない。

(三)  原告会社が本件事業年度中にダイハツ工業株式会社の株式六六万二、〇〇円相当額を購入したことはその自認するところで右購入の事実ならびにこれに伴う代金の支出が原告主張の所得計算に全く計上されていないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、その支出六六万二、〇〇〇円もまた原告会社の本件事業年度の利益を右株式に変形させてこれを隠匿したものと認むべきである。

そうすると以上認定の各預金の期末現在高から期首現在高を差引いた金額の合計一、三三〇万〇、一六一円、不動産の購入にあてられた預金一四〇万円および新規に取得せられた株式の代金六六万二、〇〇〇円の合計一、五三六万二、一六一円はいずれも原告会社の本事業年度のかくされた所得とみるのほかはない。

(四)  原告会社はその主たる営業種目である自動車の取引は道路運送車輛法の定めるところにより必然的にその登録を要するものでその営業利益に関しその一部を除外隠蔽することは不可能であると主張し、証人中隈勝、同吉川次男、同坂井豊、同陣内新一郎の各証言中にはこれに沿う部分がある、しかし原告会社の営業諸帳簿が陸運事務所の自動車登録原簿によつて的確に裏付けられているというようなことは本件において何ら実証されていないばかりでなく、公文書であるから真正に成立したものと認むべき乙第五七、第五八号証、証人小山藤生、同中隈勝、同坂井豊の証言(中隈、坂井証人については後に措信しない部分を除く)によると自動車販売業者といえども営業利益の除外隠蔽が絶対不可能であるわけでもないこと就中原告会社は中古車や部品の販売車輛の修理等の部門においても相当の収益を挙げていて特に該部門においては利益の隠蔽に困難は少いことが窺知できるのであつて、原告の右主張に沿う前掲各証人の証言部分はいまだにわかに措信し難い。

(五)  被告は前叙原告会社の簿外資産と認められる一、五三六万二、一六一円のうちには本件事業年度中に本来ならば吉住三蔵およびその家族の所得となるべき富士銀行の株式配当金等それ自体ではいまだ原告会社の収入とみなし得ない性質の金員が合計一七万五、四四〇円含まれているとし、当該金額を控除した一、五一八万六、七二一円を原告会社のかくされた所得であると認定している。

思うに、原告会社が吉住三蔵の個人会社にひとしい一家の同族会社であることは弁論の全趣旨によつて明らかであり、前認定のとおり原告会社が簿外の預金口座を設けるため吉住一族の名義を使用している関係でもあつてみれば個人の所得となるべき小切手等の受入について一先ず会社の簿外預金口座を使用したということもあり得るであろうし一家が必要あつて会社の資金を引出したあとの補填分として個人の小切手を振込んでおいたということも考えられなくはないので一部に右のような預入れがあるというだけの理由で当然他の全部が同会社の預金と認むべからざるものとなるわけではなく従つて具体的に個人の所得となるべき性質の金員の預入であることが判明した限度で当該預入金額のみを所得計算上原告会社の利益に会社の預金額から控除すれば足りるとする被告の主張は合理性を失わないものということができる。

(六)  なお右金額には発生原因の明らかな雑収入として計上すべき水害見舞金一五四万円が含まれていることは前示認定のとおりであるから簿記上の区分に従い同金額を雑収入の計上洩れとして別個に計上し、それ以外の部分すなわち一、三六四万六、七二一円をもつて本件事業年度における原告会社の営業利益の除外金額とした被告の認定は正当といわなければならない。

次に租税特別措置法第五条の一〇に定めるところにより法人の所得を計算するにあたつては青色申告書を提出する場合にかぎり価格変動準備金を損金勘定に算入することが認められるものであるところ、原告会社が被告熊本税務署長から昭和三二年六月二九日付をもつて原告会社に備え付ける帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し当該帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる不実の記載があるという理由で本件事業年度以降にかゝる青色申告書提出の承認を取消されていることは当事者間に争いがなく、原告会社は右取消処分は無効であると主張するけれどもその然らざることは前段認定により自ら明らかであるから、原告会社が本件事業年度において所得の計算上損金として処理していた価格変動準備金一七三万六、六七五円(そのことは原告が明らかに争わないので自白したものとみなされる)は前記税法上の特典を受けえなくなつた結果あらためて原告会社の所得として加算せらるべきものである。

以上認定の結果原告会社の本件事業年度における所得については原告会社において主張する所得額、すなわち当初更正処分において課税標準とせられた金額に更に以上の営業利益の除外額、雑収入の計上洩れの各金額並びに価額変動準備金額の合計一、六九二万三、三九六円が加算せられねばならないことが明らかであるから被告熊本税務署長がその加算合計額を課税標準として法人税法に従い基本税額を算定してなした本件再更正処分は正当であり、また前認定事実によれば原告会社は本件事業年度の所得の確定申告をするにあたつて法人税額計算の基礎となるべき所得金額を過少に計算申告し、その計算の基礎となるべき事実の一部を隠蔽していることが明らかであるから、同法に定めるところに従い過少申告加算税、重加算税を賦課したことも適法である。

よつて本件再更正処分の取消を求める原告会社の本訴請求は理由がないことが明らかであるから失当としてこれを棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 蓑田速夫 徳本サダ子 松島茂敏)

(別紙第一~三表省略)

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